2021年10月15日
国連安全保障理事会でのセラコヴィッチ セルビア共和国外相による演説:対話とこれまでに達成された合意の実施のみが現存する諸問題を解決する為の唯一の正しい道
国連コソボ暫定行政ミッション(UNMIK)の機能に関する国連安保理協議でのニコラ・セラコヴィッチ セルビア共和国外相の演説 :
敬愛なる安全保障理事会議長閣下、
敬愛なる安全保障理事会メンバーの皆様、
敬愛なる特別代表の皆様、
グテーレス国際連合事務総長と事務総長特別代表兼国連コソボ暫定行政ミッション(UNMIK)のタニン首班に対して、今回報告書を提出いただいたこと、またUNMIKの任務実施の為に努めていただいていることに対しての感謝の意を表明します。また安保理のメンバーの皆様に対してもコソボ・メトヒヤ問題に対して継続した注意を払っていただいていることに感謝申し上げます。セルビア共和国はコソボ・メトヒヤ自治州での平和の構築と恒久的な平和、安定、及び安全の維持を目指しており、同州に於ける国連暫定行政ミッションによる諸活動を高く評価し、また完全な形での国連安保理決議第1244号に基づいた同ミッションのより効果的な機能を求めております。
タニン首班閣下、
私達は貴殿の在任期間中に実施された諸活動と協力に対してもここに感謝を申し上げます。
議長閣下、
コソボ・メトヒヤ州に於ける安全状況に関して、ここ最近セルビア人に対する民族籍を理由とした様々な攻撃や事件が増加していることについては大きな遺憾の念と憂慮を表明しなければならず、これは今回の報告書にても触れられています;プリシュティナの暫定自治機関(PIS)は一方的な行為を続け、これまでのブリュッセルでの対話にて達成された合意の数々の実施を拒否し;またセルビア人への組織的な差別とセルビア正教会の宗教施設に対する攻撃、そして同州内のセルビア人居住地域の経済的持続性の弱体化も続けられています。
私達はプリシュティナの暫定自治機関による危険な挑発行為がそのテンポを早め、コソボ・メトヒヤ自治州に住むセルビア人の安全が極度に脅かされ、またブリュッセルでの対話にて築かれてきた協定や合意の数々が直接的に破られていることを毎日のように目撃しています。
10月13日に発生した所謂”地域作戦支援部隊(ROSU)”によるコソフスカ・ミトロヴィッツァ市北側での最新の暴力的侵入行為は9回目の同様な行為となります。催涙弾やスタングレネード、また制御なき暴力行為の数々といったものはコソボ・メトヒヤ自治州北部に住むセルビア人にとっての日常のものとなってしまい、このような状況は早急に停止されなければなりません。
プリシュティナの特殊部隊が銃火器や化学物質を用いて行なった最新の攻撃では攻撃の最中に用いられた化学物質による影響で71歳のヴェーリッツァ・ジューリッチ氏が死亡し、また同じく武器を持たない10人の市民が負傷しています。この10人の中には背中に自動小銃の発砲を受け重傷を負った36歳のスレチコ・ソフロニーイェヴィッチ氏も含まれています。発砲の対象とされた市民の中には生後3ヶ月の赤ん坊もいましたが、奇跡的に無傷で済んでいます。
これはジョセップ・ボレル欧州連合外務・安全保障政策上級代表も述べていることですが、斯様な一方的な行為に対する嘘の言い訳としては「組織犯罪と密輸行為の撲滅」という言葉が使われています。淑女・紳士の皆様、セルビアは組織犯罪と密輸行為の撲滅に力強く取り組んでいますが、国連安保理メンバーの皆様は世界各国が共有するこのように重要且つ地球規模の課題が、皮肉なことに武器を持たない一般市民への武装攻撃に利用され、自動小銃を持っての侵入行為はセルビア人やその他の民族籍の患者の方々がその命を守る上で重要な医薬品を入手している街の薬局にて始まっています。コソボ・メトヒヤ自治州での地方選挙の4日前に行われたことからも、この無責任且つ非人道的な行為は票を集める為のもので、分離主義的な目標の数々がその動機であることは極めて明白です。現在の暫定自治機関の専制体制は市民の命綱となっている医薬品に手を出して国連安保理決議第1244号に反するコソボ・メトヒヤの地位を訴えようとしたのです。
この僅か数日前にもプリシュティナによる挑発行為によって危機がもたらされています。重火器や強化型装甲車などで武装した所謂”地域作戦支援部隊(ROSU)”隊員達がセルビア中央部とコソボ・メトヒヤ自治州の間の州境上にある通過地点、ブルニャックとヤリニェに派遣され、州境を通る自動車に対してはセルビアのナンバープレートを暫定自治機関のナンバープレートに変えることが強要されたのですが、これは市民の移動の自由を不可能とする暴力行為に他なりません。
これらの出来事は国連コソボ暫定行政ミッション(UNMIK)の機能に関する国連事務総長の最新の報告書の記述対象期間後のものですが、皆様に現場がいかに緊迫した状況にあり、またプリシュティナの一方的な行為による影響がどれだけ深刻なものとなり得るかをご理解いただく為にもこの場にて触れなければなりません。
重武装のアルバニア人のみから構成されるプリシュティナ暫定自治機関の警察部隊によるコソボ・メトヒヤ自治州北部への侵入行為は様々な言い訳や動機の下に行われていますが、過度の暴力を伴ったこれらの行為は現場でのただでさえ虚弱な安全状況を更に不安定化させる可能性のある非常に危険な挑発行為です。同州北部でのプリシュティナの特殊部隊による最新の侵入行為の数々は現地のセルビア人を力の誇示によって挑発し、また更なる恐怖をもたらし、同時にベオグラードに対しては挑発的行為を用いることによっていわば軽率な対応を引き出すことが目的にあると言えます。
政治対話は現存する問題の唯一の解決方法ですが、プリシュティナがこのような行為にて10年にもわたるその政治対話の抹消を望んでいることは明白です。これらの挑発行為は改めてプリシュティナの暫定自治機関がブリュッセルでの対話による数々の合意の実施を拒んでいる事実のみならず、彼らが問題の解決方法としての対話の完全なる拒否を意図している事実をも示しました。このようなプリシュティナの信頼性の欠如と計り知れない影響をもたらし得る火遊びが続く限り、建設的態度や自制といったものを”両当事者”に呼びかけて効果を期待するのは難しいことは明白ですが、これは既に国際社会の一部の重要国の広報部門でお決まりの対応となってしまいました。このような不安定化の根源はたった一つであり、そこには名前があるのです。「プリシュティナの暫定自治機関」という名です。10月13日の出来事を受け、このような行為は国際社会による早急で断固とした対応にて阻止されなければならないことが明らかになりました。またこれらの行為がプリシュティナによる散発的な個別の挑発行為などではなく、セルビア人に対する民族的感情を理由とした組織的な暴力と差別のキャンペーンであることも一目瞭然となっています。
また10月8日に発表されたことですが、プリシュティナが最近セルビア中央部からの一部の製品に対して関税を導入したことにも憂慮を表明します。プリシュティナは2018年11月にもセルビア中央部からの製品に対しての関税導入を一方的に決定していますが、これは通商の実質上の封鎖とベオグラードとプリシュティナ間の対話の長期的な中断という影響をもたらしています。このような数々の一方的な行為によってセルビア中央部に対する障壁を築こうとするプリシュティナに対し、ベオグラードは精力的且つ一貫して人、物資、サービス、資本の流通の自由化に取り組んでおり、これこそが私達のイニシアチブである”オープン・バルカン”の根幹たる意図でもあります。
敬愛なる安全保障理事会メンバーの皆様、
今回の最新の報告書が扱う今年の3月から9月にかけては実に100件近くの民族的感情によるセルビア人への攻撃や、彼らの私財及び宗教・文化施設に対する攻撃がありました。これら攻撃の頻度が高まっているばかりか、民族的感情を理由とした暴力行為の激しさも深刻なものとなっています。子供や老人、女性、数少ない帰還者、それにセルビア正教会の寺院や施設がターゲットとなる事件が増加しているのです。
これらの攻撃の数々によってセルビア人社会では遍在する不安が体系的に増幅され、また地元のアルバニア人社会が罰則を受けることもなくセルビア人を攻撃し、セルビア人の故郷への帰還と居住を不可能なものとすることも可能だというメッセージは帰還を望む人々を戻してしまうことにも繋がります。
コソボ・メトヒヤ州でのセルビア人の現状を最も如実に表しているのは今年6月初頭に発生した、ジャコヴィッツァ市にある自分のアパートに帰還したドラギッツァ・ガーシッチ氏のケースでしょう。地元のアルバニア人達は誇りさえ持ってこの街を”セルビア人が禁じられた街”などと呼んでいますが、ガーシッチ氏は帰還の直後にアルバニア人市民からの肉体的暴力や言葉の暴力を受けることになりました。この重い病気も抱えた女性は保護を受けることもなかったばかりか、その後地元の自治体や警察も参画した組織的な迫害の被害者となっています。彼女は20年以上の時を経てセルビア人として最初で唯一のジャコヴィッツァへの帰還者であり、彼女の権利の保護にあたっては少なくとも地元の市民社会組織が参画することが期待されていました。しかしガーシッチ氏の迫害を目的とした行為には間も無くこのジャコヴィッツァの市民社会組織の数々も加わることとなりました。この中には民主主義と法の支配の強化に関するプロジェクトで外国から資金援助を受けている団体さえあったのです。
またペーチ市の中心部では唯一街に残ったセルビア人女性である元教師のルメナ・リュービッチ氏の家で今年の10月13日、24時間の間に2回にもわたって窓への投石がありました。
ドラギッツァさんとルメナさんの辿った運命は人権を巡る悲惨な状況を描き出しており、200,000人以上にも上るセルビア人とその他の非アルバニア人の避難民にとっても同様の運命がコソボ・メトヒヤ自治州で待ち受けていることを意味するものでもあります。彼らが20年以上の時を経て同州に残る自分の家への帰還を果たすためには並々ならぬ勇気が必要です。1999年以降、コソボ・メトヒヤ自治州への持続的な帰還はセルビア人とその他の非アルバニア人の国内避難民の僅か1.9%しか果たせていません。
従ってこれらへの言及は、安全保障理事会メンバーと現場に駐在する国際機関が国連安保理決議第1244号により実施されている国連コソボ暫定行政ミッション(UNMIK)の任務の重要な部分でもある避難民の帰還という問題に今後優先的に注意を払わせるものと信じています。
またこれを理由に私は事務総長がこの非常に重要な問題に焦点を当て続け、今回の報告書の結論の中でも国内避難民の持続可能な帰還と帰還民の持続可能な再統合のための条件の構築を再度呼びかけたことに感謝の意を表するものです。
敬愛なる安全保障理事会メンバーの皆様、
コソボ・メトヒヤ自治州にあるセルビアの中世文化財の数々は、一部がその並外れた価値と共に、絶え間無く危険に晒されていることを理由にユネスコの危機遺産に登録されていますが、これらは未だにヨーロッパでも最も危険に晒されている文化遺産の一つでもあります。
コソボ・メトヒヤ自治州には1,300以上ものセルビアの教会と修道院があります。セルビアの文化・宗教遺産への攻撃は、同時に州内に居住するセルビア人のアイデンティティへの攻撃でもあり、彼らの安全に対する心情に直接的な影響をもたらします。
同州内にあるセルビアの文化・宗教文化財を顧みない行為の顕著な例は、ヴィソキ・デチャニ修道院でしょう。この修道院は2000年以降数々の攻撃や砲撃の標的とされ、その脅威の為にコソボ治安維持部隊(KFOR)による警備下にあります。一連の敵対行為に直面し、加えて加害者が世界遺産であるという事実を加味することもありません。幾度にもわたる宣言といった形での呼びかけにもかかわらず、5年前プリシュティナ暫定自治機関の所謂”憲法裁判所”は24ヘクタール余の土地に対するヴィソキ・デチャニ修道院の所有権確認を拒否しています。私達はこの問題についての国連事務総長の評価を歓迎するものです。
敬愛する議長閣下、
セルビア共和国は安保理決議第1244号にも定義されているように、恒久的平和と安定をもたらす妥協的な政治的解決策の模索に引き続き取り組む所存です。私達は対話と結ばれた数々の合意の実施こそが全ての現存する諸問題の解決にあたっての唯一の正しい道であると深く信じています。
国際法の順守を求める国連加盟国として、セルビアは対話における当事者間に作為的なバランスを確立しようとするいかなる試みにも、そして一方的な行為が伴う責任の相対化にも反対するものです。
また私達はブリュッセル協定が結ばれてから8年以上が経過しても、ベオグラードが同協定に基づく全ての義務を果たしたのに対して、セルビア人自治体連合の設立が未だに始まっていないことについて憂慮を表明するものです。
これまでのエネルギー、司法、移動の自由、当局者の訪問といった分野での対話にて達成された合意の数々にプリシュティナ側が違反ないしは妨害するケースは数多く、且つ定期的なものとなっています。
その一例としてはイヴァン・トドスィイェヴィッチ氏に懲役2年の判決が下されたことが挙げられますが、これは事務総長報告書の中でも指摘されています。これは欧州連合の代表者達によっても指摘された通り、ブリュッセル協定の直接的な違反にあたります。プリシュティナはこの行為にてコソボ・メトヒヤ自治州での和解プロセスに対して計り知れない損害を与えています。
トドスィイェヴィッチ氏がセルビア人裁判官が過半数を占める合議体によって刑の宣告を受けなければならなかった為にブリュッセル協定違反であるとの欧州委員会の見解が示されたにもかかわらず、プリシュティナは本件に関して何の反応も示していません。
またプリシュティナはコソボ・メトヒヤ自治州領内へのセルビア政府代表者の入域禁止措置も続けています。
私達は国際社会、特に欧州連合が同協定の保証者としてプリシュティナ暫定自治機関に対して全ての合意の実施を強く求めることが重要であると考えます。
敬愛なる安全保障理事会メンバーの皆様、
セルビア共和国は引き続き行方不明者の問題解決に全力で取り組む所存ですが、これは関連する国際的なメカニズムとの完全なる協力、また行方不明者問題に関する作業部会の活動への参加といったものが物語っています。プリシュティナ暫定自治機関の代表者達に対してもその義務の履行を求めるものです。
これまで私が話してきたこと全てを念頭に、コソボ・メトヒヤ自治州での国際機関の存在は国連安保理決議第1244号に合致したものであり、且つ必要なものと考えます。国連コソボ暫定行政ミッション(UNMIK)に加え、コソボ治安維持部隊(KFOR)の存在も安全保障の主要な保証者として、また欧州連合・法の支配ミッション(EULEX)の存在も法の支配という分野での活動でそれぞれ重要です。セルビアは国際法の遵守、国連安保理決議第1244号の包括的な履行、そして安保理決議によって委任された任務の遂行を目的とした国連コソボ暫定行政ミッション(UNMIK)の活動を全面的に支持することを改めてここに強調致しますが、同ミッションの活動が縮小されることなく、相応の財源を付与されることも求めたいと思います。
ありがとうございました。
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