第77回国連総会におけるアレクサンダル・ヴチッチ セルビア共和国大統領一般討論演説
「敬愛する総会議長、
事務総長、
各国代表の皆様、
そして紳士淑女の皆様、
セルビア共和国を代表して、皆様にご挨拶できることを大変光栄に思います。
時間が限られているために今日は形式的な言葉や丁寧な挨拶、出席者や欠席者への挨拶といったものは省略し、私達が何の為に集まったのかという本質的なことについて直接お話することをお許し下さい。
私はもう何度もこの場に来ておりますが、今私たちが置かれている状況の重さを見て、私は耳に痛い、しかし真実の言葉を皆さんにお伝えしなければならないとの考えに至りました。今日私達が行っていることすべては、無力で力なきものに見えます。私達の言葉は、直面している現実に対して、空虚に響くものでしかありません。そしてその現実とは、この会場では誰も誰かの言葉に耳を貸すこともなく、誰も真の合意や問題解決に努めることもなく、大半の者が自国の利益を満たすことだけを考え、その過程ではしばしば国際法の基本原則を踏みにじり、この組織の基盤となっている国連憲章やその他の文書を足下に投げ捨てている、といったことです。これを理由に責められるべきなのは、アントニオ・グテーレス事務総長でも、また国連の誰一人でもありません。それは自国の政治的、経済的、そして残念ながら軍事的な目標を満たすこと以外には何の関心も持たないような人々なのです。
現在私達は世界の地政学的状況が複雑なものとなっていることを目の当たりにしています。私達の一般討論は、第二次世界大戦以来、そして国連の創設以来、かつてないほど世界平和が乱された状況の中で行われています。私達が直面している地球規模の様々な課題は、世界の安全保障の構造を根本的に変え、既存の国際法の秩序を脅かす恐れがあります。これほどまでに複雑な時代には、国際連合という組織の根幹に織り込まれた絶対的に重要な資産である世界平和を守る為、多くの知恵と団結とが求められています。
そこで、私達が今直面している5つの重要な課題について、私の考えを正確かつ明確に皆さんにお伝えしたいと思います。
1. 平和への回帰と世界の安定の維持;
2. 国際公法および国家間関係の重要な原則となる、国連加盟国である国際的承認を受けた国々の領土保全と主権の維持;
3. 世界的な危機の中でのエネルギー安全保障;
4. 貧困国および発展途上国の財政的安全保障;
5. 戦争により世界の食糧供給ラインが寸断された状況下での食糧供給;
現在の世界情勢を鑑みれば、紛争の平和的解決という原則にとって代わるものがないことをますます思い知らされます。この原則は今日、かつてないほどに相応しいものとなっておりますが、これは国連憲章の前文にも最もよく表現されています:寛容を実行し、且つ、善良な隣人として互に平和に生活すること、というものです。武力行使の放棄と紛争の平和的解決は、世界の安定を支える支柱となっていますが、それには国連憲章の例外なき尊重や、拘束力のある国連安保理決議と有効な国際公法の基本原則とを適用することが必要になります。
2. 国際公法および国家間関係の重要な原則となる、国連加盟国である国際的承認を受けた国々の領土保全と主権の維持;
セルビアはウクライナの領土保全を含む、全ての国連加盟国の領土保全を支持します。私達はこの高貴な場所でそのように責任と真剣さをもって行動してきました。今回は多くの発言者から、ウクライナへの侵略とその領土保全の侵害についての話がありました。多くの方々はそれが欧州の土壌での第二次世界大戦以来初の紛争であると語っていました。しかし他の主権国家を攻撃することもなかったにも関わらず、セルビアがヨーロッパで初めて領土保全が侵害された国となった真実については沈黙が保たれたままです。私は何年にもわたって、これまで会談してきた様々な国の指導者たちにも、ウクライナの領土保全と主権、そして著しく侵害されているセルビアの領土保全と主権の間にはどのような違いがあるのか、また多くの国々はいったい何をもって国際的な承認と正統性とを与えているのか、といった質問を繰り返し、その明確な答えを求めてきましたが、いまだに誰からも理にかなった回答を得ておりません。
ここで思い出して下さい。セルビアは他人の領土に足を踏み入れたわけでもなく、またいかなる主権国家の領土保全も脅かしたわけでもなかったにも関わらず、1999年にはセルビアに対しての介入や侵略が実行されてしまいました。NATOに加盟する19カ国が国連安保理の決定もなしに、主権国家を攻撃することを防ぐことはできなかったのです。この武力紛争の終結時にNATOとの間に結ばれた協定の条項には、セルビアの部分的な主権と完全な領土保全の保証を確認する国連安保理決議第1244号の採択も盛り込まれていましたが、西側諸国の多くが“コソボ”の一方的独立を承認し、再び私達の国の領土保全と国連憲章、安保理決議第1244号を踏みにじることを許してしまいました。
セルビアが過去、そして現在も直面しているこのような経験から、私には今日この場で偉大なマーティン・ルーサー・キングの言葉、「どんな場所にある不公正も、あらゆる場所の公正さへの脅威である」を引用する権利があると思います。この言葉は、私たち全てへの備忘録であると共に、警告でもあるのです。
国際公法の原則的な規定に対する重大な違反を私達はまだ実感しておりますが、私達が国連の基盤となっている原則をあきらめることはありません。私達はこれからも一貫して、国境の不可侵の原則や、他の国連加盟国全ての主権と領土保全の尊重とを主張し続けます。このような私達の立場にもかかわらず、この会場にいる多くの方々は、いまだにセルビアの領土保全の尊重については問題視されているものと思います。しかしそれはなぜでしょう?なぜなら彼らには力があり、私達はそんな彼らの目には小さくて弱い存在に映ってしまうからです。しかし皆さんも耳にされたように、私達はまだこの場で真実を示す力を持っています。
各国代表の皆様、
コソボ・メトヒヤ州をはじめとするセルビア共和国の領土保全を支持する国連加盟国が、現在開催されているこの総会の過半数を占めていることに、私は特に感謝の意を表したいと思います。また国境不可侵の原則をはじめとする、国連憲章に組み込まれた基本原則に忠実であり続けることが特に重要であることからも、両会期の間にセルビアの立場を支持する国の数が増えたことは非常に心強く、これは今後も続くべき傾向だと思います。
セルビア共和国とその大統領である私は、EU仲介の下に行われているベオグラードとプリシュティナ間の対話に参加し、非常に辛抱強く、且つ多くの善意を持って、コソボ・メトヒヤ州に関しての妥協点を求めています。それは実に難しいプロセスで、もう10年以上も続いていますが、他に方法はありません。一日戦争が繰り広げられるよりも、百年交渉する方が良いのです。私は妥協に基づいた、お互いが受け入れ可能な解決策に到達できるものと信じています。なぜならそれこそが私達の目標、つまり私達の地域に居住するセルビア人とアルバニア人が共に豊かな生活を送るための前提条件となる、長期的な平和の確立を達成するための唯一の方法だからです。私達は他のすべての選択肢を既に使い果たしており、少なくともセルビアについては紛争や対立、流血の道への逆戻りといったことは夢想だにしていません。バルカン地域はもう紛争に耐えられないのです。私はこの取り組みに対して世界のパートナーから好意と理解を得られるものと信じています。なぜなら彼らもまた、過去の自国政府による決定の一部が不適切なものであり、私達の地域と世界平和の未来のために機能しなかったことをよく理解しているからです。
ハイブリッド戦争や国際世論の一部からの様々な分野でのセルビアに対する汚いキャンペーンといったものが存在する非常に複雑な状況の中で、ベオグラードはこのプロセスを主導しています。”セルビアが近隣諸国を攻撃し、地域の安定を脅かす”などという世界的メディアの報道や発言を挙げれば十分かと思います。もちろん、セルビアがそんな挙に出ることはあり得ません。私達セルビア共和国に対する一連の嘘の一つに過ぎないのです。またセルビアが地域不安定化の要素とされるのは、彼らが真実から目をそらそうとしているからであり、国境不可侵の原則はすべての国に平等に適用されなければなりません。セルビアはこれまでも、そしてこれからもこの地域全体の安定要因であり続けます。また数々の虚偽と改ざんをものともせず、セルビアは引き続きデイトン和平協定を支持していきます。これはボスニア・ヘルツェゴビナの領土保全と、ボスニア・ヘルツェゴビナ内のスルプスカ共和国の領土保全とを意味するものです。
また私は、バルカン半島に居住する人々が統一された欧州への参画というビジョンを共有する友人やパートナーとして、将来も共存の道を続ける能力を持っているものと確信しています。長年にわたって様々な民族の間に立ちはだかり、何千人もの命を犠牲にし、その未来を無駄なものとしてきた数々の障壁を克服した私達は十分に理解しているつもりです。例えば今日のセルビアとアルバニアは、バルカン半島で何世紀にもわたって共有してきた歴史の中で、最も緊密で友好的な関係を築いています。
過去ではなく未来について冷静に、そして現実的に語り、それぞれの国の国民、企業、労働者、学生、起業家たちを悩ませている問題の解決方法を話し合うことだけが必要だったのです。私達は議論を重ねて数々の解決策を導き出し、私達の間に存在していた合理的理由のない障壁を取り除きました。まず経済、貿易、人と資本の流通に於ける障壁です。セルビア、アルバニア、北マケドニアの三国は3年前から「オープン・バルカン」というプロジェクトを実施しています。このプロジェクトには明確な理念があり、それはこの地域を人々、モノ、サービス、資本、企業のために開放し、この地域を緊張や緊迫、紛争といったものを二度と生むことのない場所に作り変えることです。この「オープン・バルカン」というイニシアティブは経済的な利益をもたらすだけでなく、異なる文化を持つ人々を結びつけ多様性を促進することで、ヨーロッパのこの地域の社会全般の発展に貢献するというより広い側面も持っています。セルビアはこのようにして地域の平和、安定、和平のプロセスに貢献し続けており、世界規模の安全保障に大きく寄与しているのです。
私達は歴史上最も偉大な外交官の一人であり、偉大な国連事務総長だったダグ・ハマーショルド氏の、"国連は私たちを天国に導くためではなく、私たちを地獄から救うために創設されたのだ”という言葉にインスピレーションを受けたのです。
紳士淑女の皆様、
地球規模で流行したパンデミックを抑えたばかりの私達は再び、今世紀に予想だにしなかった新しい課題の数々に直面しています。人類として一歩一歩、技術的に急速に進歩している一方で、エネルギーの安全保障、途上国の金融安全保障、基本的な食料のサプライチェーンの途絶といった、人類の生存に関わる問題が私達の前に出現したのです。パンデミックとの戦いにおいて必要とされた連帯感は、食料とエネルギーという人々の根本的なニーズが脅かされている今日、より一層必要とされています。
セルビア共和国にとってエネルギー安全保障は国家安全保障の不可分の一部であり、国の継続的な経済発展と進歩の上で重要な前提条件であると考えています。私達はエネルギー供給の継続性確保のために努力していますが、世界と欧州のエネルギー供給の安定を脅かす、昨今の地政学的な課題についての懸念を共有しています。私達は地域および欧州のエネルギー安全保障を達成するための努力にて、変革的な力となり得る解決策を見出す為に引き続き関与していきます。また今回の危機においてセルビア共和国はエネルギー供給の継続性を維持することができたことをここに強調したいと思います。しかし私達は引き続き、エネルギー供給源の多様化やエネルギー関連インフラへの更なる投資、再生可能エネルギーによる供給能力の迅速かつ効率的な開発に大きな関心を持っています。
私達は現在、国連の「より持続可能で強靭な未来、行動、変革のための10年」の下にあります。引き続きその目標は掲げられるべきですが、しかしそのペースはもう少し速いものであるべきだと思います。不均等な発展や発展途上国の財政的脆弱性は、社会に更なる階層を生み出し、必然的に新たな対立を引き起こしてしまいます。バランスのとれた開発は、地理的、政治的に制限されたり、条件付けられたりしてはならず、民族、人種、文化、宗教に関係なく、全ての人々にとって可能なものとなるようにしなければなりません。
共同の努力で乗り越えなければならない、非常に重要な課題がもう一つ存在します。それは現在の国際的な危機が世界の食料供給の安全保障に及ぼす影響を回避する為に最も効果的な方法を見出すことです。事態の展開は極めて憂慮すべきもので、実際に私達は誰一人の例外もなく全員が影響を受けてしまうのです。私達の住むヨーロッパでも食糧供給の安全が脅かされる可能性があり、またアフリカ大陸などでは壊滅的な状況に至る恐れがあります。また食料の価格高騰とその確保が、更なる問題となっています。私たち全員に与えられた課題は、誰も置き去りにすることのない、実施可能で効率的な解決策を見出すことです。国際社会で最も重要な主体である私達国家は、最もかけがえのないものである人間の生命とその尊厳とを守るために、個別に対策の話し合いに参加するなどして、国家レベルでこの崇高な使命に貢献することが求められているのです。
今年の一般討論のテーマは、時の貴重さと、国際社会で発生している課題の数々の間にある関連性を想起させるものです。私たちが直面している危機は、開かれたコミュニケーションの重要性を改めて認識させるものです。課題を克服するためには、その原因を正しく把握することが必要であることは言うまでもないでしょう。問題を無視し、国家間のコミュニケーションを欠くことは、状況を悪化させ、複雑化させるだけだということを、私たちは目の当たりにしています。セルビアは現在の課題がいかなる形であれ、世界の分裂を深めてはならず、地球規模で既に明白で傾向的な二極化が、多国間主義の原則に道を譲ることが必要だと考えています。
セルビア共和国も持続可能な開発目標を達成する為の2030アジェンダに関する集団的な努力に参画しています。セルビアは『私たちの共通の課題』にて決定された国際協力の将来に関する事務総長のビジョンを共有し、人類の最も差し迫った課題に対応する最善の手段として、包括的でネットワーク化された、効果的な多国間主義を強く支持しています。
紳士淑女の皆様、
多国間主義、集団行動、責任の共有といったものはこれまでの議論に不可欠な要素でしたが、そうした建設的な動きの原点は連帯にあるのです。
最後にセルビア共和国が今後も、国連で定められた共通の目標を達成する為に信頼できるパートナーであり続けることを確認したいと思います。それこそが私達と将来の世代のためにより良い世界を築く最善の方法であると固く信じているからです。しかし国連というものは、国々が共に合意した決定や行為を尊重することで初めて力を発揮するのだということを忘れてはなりません。
これまで23回も聞いたことをここに引用したいと思います。それは、私達が従うべき唯一の基準とは国連憲章である、というものです。私達セルビア共和国にすれば、国連憲章や国連決議について発言した23人のうちの17人が国際公法に違反し、国連が定めたルールを尊重しなかったという事実を指摘出来ますが。とにかく私達があらゆる困難を乗り越え、同じルール、同じ手順が世界の全ての国に適応されるようになることを願っています。そうでなければ、このトンネルの先に出口はあり得ないと思うのです。ご清聴ありがとうございました。セルビア万歳!」